タンニンレザーは良いもの・クロムレザーは悪いものなのか?革職人が考える「本当に良い革」の定義 - artigiano

タンニンレザーは良いもの・クロムレザーは悪いものなのか?革職人が考える「本当に良い革」の定義

2026年8月3日

クロム鞣しとタンニン鞣しとは

少しマニアックな内容で長くなり興味の無い方も多いかもしれませんが、僕たちが大事にしていることの一つなので、少しまとめて書いてみようかと思います。

皮革製品を取り扱いしていると

「タンニンレザーは高級」
「クロムレザーは安物」
「ヌメ革こそ本物」

といった情報を目にすることが少なくありません。

しかし、長年革に携わってきた立場から言わせていただくと、このような二択で革を判断してしまうのは非常にもったいないことだと思っています。

結論から言えば、

「クロムレザーだから悪い革」ということはまったくありません。

むしろ現在の革製品市場では、クロムレザーは欠かすことのできない重要な素材です。

今回は、「タンニンレザー=良い」「クロムレザー=悪い」というイメージについて、革づくりの現場から感じていることを書いてみたいと思います。


タンニン鞣しとクロム鞣しだけで分けること自体に無理がある

まず最初にお伝えしたいのは、

革を「タンニン鞣し」と「クロム鞣し」の二種類だけで分類すること自体が、実はあまり正確ではないということです。

一般には、

  • タンニン鞣し
  • クロム鞣し

この二つだけが語られることが多いですが、実際の革づくりはもっと複雑です。

例えばタンニン鞣しにも、

  • ピット槽で時間をかけて鞣す方法
  • ドラムという大型機械で鞣す方法

があります。

さらに実際の製造現場では、

  • タンニン鞣し
  • グルタルアルデヒド鞣し
  • クロム鞣し

などを組み合わせ、その後にシュウ酸などでクロムを抜く工程(通称「脱クロ」)を行う革も存在します。

こうした革も市場では「ヌメ革」として販売されていることが少なくありません。

つまり、多くの人が「ヌメ革」と思っている革の中にも、実際にはさまざまな製法が存在しているのです。


私が考える本来の「ヌメ革」

個人的には、

タンニンのみで鞣された革こそ、本来の意味でのヌメ革だと思っています。

もちろんコンビ鞣しが悪いという意味ではありません。

言葉の定義として、本来はそう呼び分けるべきではないかという考えです。

そしてヌメ革の一番の魅力は、

革の繊維層がしっかり残っていること。

これこそが本質だと思っています。

繊維が崩れず、しっかり締まった革は、

  • 強度が高い
  • 型崩れしにくい
  • 長く使える
  • 経年変化が美しい

という特徴があります。

単純に「タンニンだから良い」のではなく、

しっかりと鞣されているかどうか

が重要なのです。


クロムレザーは本当に悪い革なのか?

では、クロム鞣しを含む革は悪い革なのでしょうか。

私の答えは、

まったくそんなことはありません。

クロム鞣しにはタンニン鞣しにはない優れた特徴があります。

例えば、

  • 柔らかい
  • 軽い
  • 染色性が高い
  • 耐熱性に優れる
  • 生産効率が良い
  • コストパフォーマンスが高い

といったメリットがあります。

バッグや財布だけではなく、

  • ソファ
  • 自動車シート
  • アパレル
  • 手袋

など幅広い用途で使用されているのは、こうした性能があるからです。

現在、市場に流通する革の約8~9割がクロムレザーと言われています。

これは単に大量生産だからではなく、

用途に適した性能を持っているから選ばれている

ということでもあります。


コンビ鞣しという優れた選択肢

実際にはタンニンとクロムを組み合わせた「コンビ鞣し」も非常に多く存在します。

コンビ鞣しでは、

タンニンのコシや経年変化と、

クロムの柔軟性や加工性を両立できます。

つまり、

「どちらが良いか」

ではなく、

目的に合わせて、それぞれの長所を活かしている

ということです。

革づくりは「良い・悪い」の世界ではなく、

「用途に合わせた設計」の世界なのです。


クロムは身体に悪いというイメージについて

クロムレザーについて語ると、

「金属だから身体に悪いのでは?」

という質問をいただくことがあります。

しかし、革の鞣しに使用される3価クロムは、自然界にも広く存在しているもので、一般的には毒性は低いと考えられています。

もちろん注意すべき点がないわけではありません。

廃棄方法には注意が必要

クロムレザーを焼却する場合には、高温焼却が必要です。

低温で燃焼すると、有害な6価クロムへ変化する可能性があります。

そのため、家庭で革を燃やすようなことは絶対に避けるべきです。

通常は自治体や産業廃棄物の適切な処理ルートで処分されるため、一般の方が心配する場面はほとんどありませんが、知識として知っておくことは大切です。

クロムアレルギーについて

ごく一部ではありますが、3価クロムに対してアレルギー反応を示す方もいます。

報告では、おおよそ1~3%程度と言われています。

これは他の金属アレルギーと同じように個人差があるものです。

ちなみに私の母はアクセサリーなどでは金属アレルギーがありますが、クロムレザーでは特に問題なく使用しています。

もちろん体質には個人差がありますので、不安な方は事前に確認されることをおすすめします。


私が考える「本当に良い革」とは

ここが今回一番伝えたい部分です。

私が考える良い革とは、

タンニンかクロムかでは決まりません。

重要なのは、

  • 適切な鞣しがされていること
  • 繊維層ができるだけ崩れていないこと
  • 用途に合った設計になっていること

です。

例えば、

バッグなら型崩れしにくいこと。

財布なら長く形を保てること。

ベルトなら伸びにくいこと。

こうした性能は、

革の繊維構造や鞣しの完成度によって大きく変わります。

しっかり鞣されたヌメ革で作られたベルトは、何年使っても腰が抜けにくく、丈夫さを実感できます。

逆に柔らかさを求めるバッグや衣料では、クロムレザーやコンビ鞣しの方が適していることも多くあります。

つまり、

用途に合った革であることこそが「良い革」なのです。


良い革は素材だけでは決まらない

革は天然素材です。

一枚の半裁の中でも、

  • 背中
  • ショルダー
  • ベリー

では繊維密度が異なります。

そのため、どの部分をどの製品に使うかという裁断技術も非常に重要です。

さらに、染色方法・加脂方法・表面仕上げ

顔料仕上げ・アニリン仕上げ・型押し・シュリンク加工

など、仕上げだけでも数百種類もの方法があります。

つまり、革は鞣しだけで品質が決まるものではありません。

素材を理解し、用途に合わせて設計し、

適切な加工を施して初めて良い革になります。


優れた革を作るタンナーの存在

もちろん、タンニン鞣しの中にも素晴らしい革があります。

例えばイタリアのベジタブルタンニン協会に所属するタンナーが作る革は、世界的にも高い評価を受けています。

国内でも、

  • 新喜皮革さんのコードバン
  • 昭南皮革さんのベンズ
  • 栃木レザーさんのピット鞣し

などは、ヌメ革として非常に優れた革だと思います。

一方でクロムレザーでは、

世界的には、エル〇スで代表されるシュリンクレザー

国内においては兵庫県川西地域にあったコンツェリア多田さんやヤマクニさんといったタンナーさんは、大きく繊維層を崩さず独自の鞣し技術によって非常に柔らかく手触りの良い革を作ることで業界では有名です。

特に「二加脂」と呼ばれる技術による、しっとりとした質感は、多くの職人から高く評価されています。

このように、良い革はタンニンだけではなく、クロムやコンビ鞣しにも数多く存在します。


まとめ|「タンニンかクロムか」ではなく「どのように作られた革か」を見てほしい

革は食肉文化から生まれる副産物であり、限りある資源を有効活用した素材でもあります。

だからこそ、一時的な流行やイメージだけで判断するのではなく、本当に長く使える革製品を選んでいただきたいと思っています。

「タンニンだから良い。」

「クロムだから悪い。」

そんな単純な話ではありません。

大切なのは、その革がどのような目的で、どのような技術によって作られたのかということです。

しっかりと鞣され、繊維構造が健全に保たれ、用途に合った仕上げが施された革こそ、本当に価値のある革だと私は考えています。

革にはそれぞれの個性があります。

硬い革にも、柔らかい革にも、それぞれに役割があります。

ぜひ「鞣し方法」だけで判断するのではなく、その革が持つ本当の魅力に目を向けながら、自分に合った革製品を選んでいただければ嬉しく思います。

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