業界34年の職人が感じてきた「業界のルール」 - artigiano

業界34年の職人が感じてきた「業界のルール」

2026年9月29日

バッグの製造現場にいて思うこと。どんな仕事もそうなんだけど大切なのは、結局「誠実さ」なのかもしれない

おはようございます。今日は少しいつもとは違う切り口で、時事ネタも絡めてブログを書いてみようと思います。

最近SNSなどを見ていると、バッグやファッション業界の「ものづくり」に関する話題がいろいろと目に入ってきます。

その中でも、ある有名ブランドの商品が発注数量以上に製造され、正規の流通とは別のルートに流れていたのではないか、という話題がSNSなどで広がっています。

「自社工場で作っていなかったんだ」

「ブランドネームや材料の管理はどうなっていたんだろう」

「そもそも、発注した数量以上の商品が、どうして作れるんだろう」

SNSではいろいろな意見が飛び交っています。

もちろん、事実関係については当事者や関係機関から正式に発表されない限り、外から見ている私たちが簡単に断定できることではありません。

ただ、34年間バッグの製造現場に携わってきた人間として、こうしたニュースを見ていると、どうしても「ものづくりの現場」という視点から考えてしまいます。

今日は、そんなことについて少し書いてみたいと思います。

34年、バッグを作る現場で見てきたもの

私は今年で55歳になります。

自分自身がバッグの製造に携わって34年。

父親の代から数えれば、家族としては50年以上、この業界に関わってきたことになります。

その間、本当にいろいろなことがありました。

良いこともありましたし、「これはちょっと違うんじゃないかな」と思うようなこともありました。

バッグという商品は、完成したものだけを見ると、一つの商品に見えます。

しかし実際の製造現場では、裁断、縫製、加工、金具の取り付け、仕上げ、検品、梱包……と、たくさんの工程があります。

そして、その一つひとつに人が関わっています。

だからこそ、ものづくりというのは、単純に「工場にお願いして商品を作ってもらう」というだけではありません。

数量が増えれば増えるほど、管理するものも増えていきます。

材料、パーツ、ブランドネーム、型、仕様書、製造数量、検品、在庫。

どこか一つの管理が曖昧になるだけでも、思わぬ問題につながる可能性があります。

数年前、工場を実際に見学させてもらった

今回SNSで話題になっている件に関連して、私自身、数年前にその工場さんを視察させていただく機会がありました。

実際に工場を見せていただいたのですが、私がそれまで見てきた大阪のカバン工場とは、規模も設備も管理体制も、かなり違っていました。

設備が整っているだけではありません。

人の配置や製造工程の組み方にも、かなり工夫がされていました。

例えば、製造工程の中で「ここは人が間違えやすいな」というところには、機械や作業の回し方を工夫することで、単純なヒューマンエラーを起こしにくくしている。

これは、実際に製造している人間からすると、とても勉強になります。

「なるほど、こういう仕組みにすればミスを減らせるんだ」

そんなことを感じながら見学させてもらった記憶があります。

やはり、これだけ名前のあるブランドの商品を、ある程度まとまった数量で製造するとなると、職人さん個人の経験や勘だけではなく、システムとしてものづくりを機能させることが重要なんだなと感じました。

この事が非常に印象に残っています。

では、発注数量以上の商品はどうやって作られるのか?

今回の話題を見ていて、製造現場を知っているからこそ、私が個人的に疑問に思ったことがあります。

それは、

「どういう方法で、発注数量以外のものを生産できたのだろう?」

ということです。

もちろん、これは今回の件について私が事実を知っているという話ではありません。

あくまでも、長年製造現場にいる人間としての疑問です。

バッグを作るには、生地や革だけではなく、ファスナー、金具、裏地、芯材、ブランドネームなど、さまざまな材料や部材が必要になります。

特にブランドの商品となれば、ブランドネームや専用パーツなど、通常の商品とは違う管理が必要になることもあります。

私の伯母は、今は廃業してしまいましたが、誰もが知っている海外の超有名ブランドの正規修理工場を経営していました。従業員は50人ほどいたと思います。

そこでは、商品の修理だけではなく、金具などのパーツの管理も非常に厳格に行われていました。

「ブランドの名前を扱う」ということがどういうことなのか。

私の中ではブランドネームやパーツというものは、単なる材料ではなく、非常に重要な管理対象という認識があります。

だからこそ、今回のような話題を見ると、

「実際の現場では、どんな管理体制になっていたんだろう?」

と考えてしまうわけです。

実は、業界には昔からいろいろな「商習慣」がありました

今回の話だけが特別なのかというと、私はそうとも思いません。もちろん、横流しなどの不正行為を肯定するつもりはありません。

ただ、長くこの業界にいると、「昔からこういうことはあったよな」と感じるような、いろいろな商習慣を目にしてきました。

例えば、私たちのブランドの名前を少し変えるだけで商品を展開する国内大手ブランドさんがあったり。

ほとんどの工程を中国など海外で済ませ、最後の組み立てなど一部の工程だけを国内で行って、「日本製」と表示するようなケースがあったり。

また、サンプルを作るための費用や金型代など、本来であれば商品を企画する側と製造する側で相談しながら決めるべき費用を、工場側に負担させるようなケースもありました。

そして、個人的に一番つらかったのは、「発注以外の決め事が、ほとんど口約束」か

依頼側が主導権を握るという事です。

取引してきたとしても、何かの事情で得意先の都合が変われば、突然仕事がなくなる。

「来月からこの仕事はありません」と言われてしまえば、工場側はそれまで。

人を雇い、設備を持ち、材料を仕入れ、仕事が来ることを前提に準備していても、そのリスクを工場側が背負わなければならない。

そういう経験も、私たちはしてきました。

だから、自分たちのブランドを作りました

そういった経験をたくさんしてきたからこそ、

「このままでいいのかな?」と思うようになりました。

もちろん、他社さんを批判したいわけではありません。それぞれの会社に、それぞれの事情があります。

ただ、私たち自身がこれからもものづくりを続けていくのであれば、自分たちで責任を持てる仕事を増やしていきたい。

そう考えるようになりました。

そして立ち上げたのが、私たち自身のオリジナルブランドです。

ブランドを立ち上げてから、もう16年になろうとしています。

振り返ってみると、決して順風満帆だったわけではありません。

最初からたくさん売れたわけでもありません。

自分たちで商品を考え、サンプルを作り、販売方法を考え、失敗して、また作り直す。

そんなことの繰り返しでした。

それでも、自分たちが作ったものを自分たちの責任でお客様に届けるという仕事には、これまでのOEM中心の仕事とは違う面白さがありました。

2017年、EC販売を始めました

そして2017年から、ECでの販売にも力を入れるようになりました。

これも最初から何もかも順調だったわけではありません。

実際に商品を購入してくださるお客様がいて、商品を使ってくださる。

そして、その感想をレビューとして届けてくださる。

気がつけば、これまでに数千件ものレビューをいただくことができました。

もちろん、すべてが良い評価というわけではありません。

ときには厳しいご指摘をいただくこともあります。

でも、それも私たちにとっては非常に大切なことです。

「ここが使いにくかった」

「こうだったらもっと良かった」という声を直接いただける。

これは、製造現場にいる私たちにとって、とてもありがたいことです。

なぜなら、作っている側だけでは気づけないことが、実際に使ってくださったお客様から見えてくるからです。

そして何より嬉しいのが、

「また買いました」

「今回も良かったです」

と、何度もリピートしてくださるお客様がいること。これは、ものを作っている人間にとって、本当に励みになります。

結局、最後に残るのは「誠実に仕事をすること」なのかもしれない

今年で55歳になり、最近は少しずつ、自分の仕事のことだけではなく、「次の世代に何を残していくのか」ということを考えるようになりました。

34年間、現場にいて思うこと。

それは、結局のところ、コツコツと誠実に仕事をすることが一番大事なのではないかということです。

もちろん、商売ですから利益も必要です。効率も大切です。

時代に合わせて変化することも必要です。

昔ながらのやり方だけでは、これからの時代を生きていくことはできません。

でも、どれだけ時代が変わっても、

「約束したものを作る」

「お客様に嘘をつかない」

「問題があればきちんと向き合う」

「一緒に仕事をする人を大切にする」

「自分たちが作ったものに責任を持つ」

こういう基本的なことは、これからも変わらないのではないでしょうか。

ブランドというものは、ロゴや名前だけでできているものではないと思います。

その商品を作っている人。

販売している人。

そして、その商品を選んで使ってくださるお客様。

そのすべての積み重ねによって、少しずつ信頼ができていくものだと思います。

これから先、次の世代に残していきたいもの

私自身、いつまでも今と同じように仕事ができるわけではありません。

55歳になった今、これから先のことを考える機会も増えてきました。

自分がこれまで経験してきたことを、次の世代にどう伝えていくか。

バッグの作り方だけではありません。

「なぜ、この工程が必要なのか」

「なぜ、この材料を使うのか」

「なぜ、ここを丁寧に仕上げるのか」

そして、

「なぜ、ものづくりに誠実であることが大切なのか」

そういう部分まで伝えていけたらと思っています。

技術は教えられても、仕事に対する姿勢は、実際に一緒に仕事をしながら見てもらうしかない部分もあります。

だからこそ、自分自身がこれからも恥ずかしくない仕事をしていきたいと思っています。

いつか「ものづくりを体験できる場所」を

そして、実は今、個人的に構想していることがあります。

それは、最終的には、私たちの商品を実際に手に取って見てもらえる場所。

そして、可能であれば、バッグがどのように作られているのかを実際に見たり、ものづくりを体験してもらえたりする場所を作りたいと思っています。

ECで商品を販売していると、どうしてもお客様との距離が少し遠くなります。

画面に商品写真があり、説明があり、レビューがある。

それはそれで便利なことですが、実際に工場でバッグを作っているところを見てもらうと、また違ったものが見えると思うんです。

「このバッグ、こんなにたくさんの工程を経て作られているんだ」

「ここは人の手で作っているんだ」

「こういうところに職人さんの技術があるんだ」

そんなことを知ってもらえたら、ものを見る目も少し変わるかもしれません。

そして、子どもたちや若い世代の人たちにも、

「日本にも、こういうものづくりの仕事があるんだ」

と知ってもらえたら嬉しいです。

最後に

今回、SNSで話題になっている出来事をきっかけに、少し業界の裏側のような話を書いてみました。

34年間、この仕事をしてきたからこそ、見えてきたことがあります。

もちろん、私が見てきたものが業界のすべてではありません。

まだまだ知らないこともたくさんあります。

ただ、一つだけ自分自身が大切にしてきたことがあります。

それは、「自分たちが作ったものに責任を持つ」ということ。

これからも、商品を購入してくださるお客様の期待を裏切らないように。

レビューでいただく一つひとつの声を大切にしながら。

そして、何年か経って振り返ったときに、

「この仕事を続けてきて良かったな」と思えるように。

これからも、派手なことはできなくても、コツコツと誠実にものづくりを続けていきたいと思います。

いつも商品を購入してくださっている皆さま。

レビューを書いてくださる皆さま。

何度もリピートしてくださる皆さま。

そして、私たちの仕事を応援してくださる皆さま。

本当にありがとうございます。

これからも「買って良かった」と思っていただける商品を作っていけるよう、頑張っていきます。

そしていつの日か、皆さんに実際のものづくりの現場を見てもらえる場所を作ることができたら。

そのときは、ぜひ遊びに来てください。

34年分の経験と、これからの次の世代への想いを、少しずつ形にしていけたらと思っています。

これからも、どうぞよろしくお願いいたします。

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