長く使える財布の秘密|職人が選ぶ「へり返し」仕上げの魅力とは - artigiano

長く使える財布の秘密|職人が選ぶ「へり返し」仕上げの魅力とは

2025年6月23日

本日のブログは、websスタッフの上田が初めて担当します。

ものづくりを生業にしている方々は、自分たちの仕事に強いこだわりを持っている一方で、それを言葉で伝えるのがあまり得意ではない方も多いと感じます。私自身、日々その現場に立ち会うようになってから、手仕事の魅力や想いをもっと多くの人に伝えたいと思うようになりました。

実際にそばで見ているからこそ気づくことや感じることがあります。そういった小さな気づきを、これからブログを通して少しずつお伝えできたらと思っています。そして、手に取ってくださる方に、ものづくりの背景や作り手の想いが少しでも伝われば嬉しいです。

これからどうぞよろしくお願いいたします。 初めてのブログは財布の手仕事について書いてみました。

財布や革小物の仕上げには、いくつかの技法があります。その中でも「コバ塗」と「へりかえし」は、とても代表的な2つの手法です。当店では、多くの財布で「へりかえし仕上げ」を採用しています。なぜ、手間も時間もかかるこの技法にこだわるのか。今日はその理由を少しだけお話しさせてください。

コバ塗とは?

「コバ」とは革の切り口の部分を指します。「コバ塗」は、その切り口に専用の塗料を塗り重ね、磨き上げて滑らかに仕上げる技法です。
コバ塗の特徴は、シャープでエッジの効いた見た目が得られること。シンプルで直線的なデザインの財布によく似合います。また、カラーバリエーションも楽しめるので、デザインのアクセントにも使われます。(黄色の破線で囲った部分がコバ塗り)

へりかえしとは?

一方「へりかえし」とは、革の端を薄く漉き(すき)、丁寧に折り返して内側に貼り合わせる技法です。革の断面(コバ)が見えないため、縁が柔らかく滑らかに仕上がります。一見するとシンプルに見えるこの仕上げですが、実はとても繊細で高い技術が必要です。角の丸みや手触りも良く、長く使うほどに手に馴染んでいくのが特徴です。

■ 使っていく上でのメリット・デメリット


コバ塗りのメリット

  • シャープでモダンなデザインが楽しめる
     → カラーリングやラインを活かしたデザインに向いている。(どちらかと言えば、メンズアイテムに多い傾向)
  • 部分補修がしやすい
     → コバが摩耗しても再度塗り重ねて修理しやすい。
  • 軽量化しやすい
     → 折り返しがない分、若干軽く仕上がる場合がある。

コバ塗のデメリット

  • コバが割れたり毛羽立ちやすい
     → 使い方によっては、特に角部分から塗料の剥がれや毛羽立ちが出てくることがある。
  • 経年変化に差が出やすい
     → 使用状況によっては、見た目の劣化が早く出ることがある。


へりかえしのメリット

  • 縁が摩耗しにくい
     → 革の断面(コバ)が隠れているので、使用中にコバが割れたり、毛羽立つリスクが低い。
  • 手触りが柔らかく、手に馴染む
     → 角や縁に丸みがあるので、手に持った時の感触が優しい。
  • 経年変化が穏やか
     → コバ塗料の剥がれなどがないので、均一にエイジングが進む。長年使っても上品な印象が残りやすい。
  • 高級感が持続する
     → 縁の仕上がりが滑らかで上品さが続く。

へりかえしのデメリット

  • 修理がやや難しい
     → 縁の補修が必要になった場合、コバ塗りに比べて部分修理が難しいことがある。

当店が「へりかえし」を選ぶ理由

当店では、ほとんどの財布で「へりかえし」の仕上げを採用しています。理由は大きく3つあります。

1. 手触りの良さ

革を折り返すことで、手に当たる部分が柔らかく、優しい感触になります。毎日手にする財布だからこそ、使うたびに心地よく感じていただきたいと考えています。

2. 上品で長持ちする美しさ

へりかえし仕上げは、革の断面が露出しないため、経年変化も穏やかで美しさが長く続きます。高級感のある滑らかな表情は、使い込むほどに深みを増します。

3. 職人の丁寧な手仕事が活きる

へりかえしは、下処理の漉き加工や折り返し部分の厚み調整、接着、一つひとつの工程に高い技術が求められます。当店の職人たちは、この「手間ひま」を惜しまず、丁寧に仕上げることで、他にはないクオリティを実現しています。

職人の“見えない仕事”が光る工程

1. 革の厚みは0.1ミリ単位で調整

まず、折り返す部分の革を絶妙な厚みに漉いていきます。厚すぎれば折り返せず、薄すぎれば強度が落ちる。革の種類によっても適切な厚みは微妙に違います。この漉き作業だけでも、職人の経験と感覚が問われます。

2. 美しく折り返すための下準備

折り返し部分には接着剤を塗り、均一な厚みに整えます。ここでムラがあれば、わずかなシワや浮きが後に表れてしまいます。一発勝負の真剣勝負です。

3. 指先の感覚で仕上げる角の丸み

特に角の処理は技の見せどころ。丸みのある美しいコーナーに仕上げるには、指先の力加減と道具さばきが決め手です。一つひとつ、手作業で丁寧に折り込みして仕上げます。

まとめ

お財布って、気づけば毎日手にしているものですよね。バッグから取り出す時、お会計の時、ふとした瞬間に手に馴染んでいる。だからこそ、ほんの少しの手触りや、縁の滑らかさが、意外と大きな心地よさにつながるものです。

へりかえし仕上げは、そんな「毎日使う心地よさ」を大切にした作り方です。角が柔らかくて、手に優しく馴染んでいく。長く使っていくうちに、革の色やツヤが少しずつ深まって、自分だけの風合いになっていく。それがこの仕上げの一番の楽しさです。

もちろん、コバ塗り仕上げのシャープさやカッコよさも素敵です。エッジの効いたデザインがお好きな方にはぴったりだと思います。ほんの少しお手入れをしながら、革と一緒に時間を過ごしていくのも、きっと楽しいはずです。

私たちがへりかえし仕上げにこだわるのは、毎日手にするからこそ「ずっと気持ちいい」「ずっと好きでいられる」——そんなお財布を届けたいからです。もしよければ、一度手に取って、その優しい手触りを感じてみてくださいね。

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